阿部ゼミでは、今年度もユニークなテーマでの卒論が多数提出されました。その1つ、W君の「情報モラル教材の批判的検討―生徒の「本音」をもとにした分析―」はかなり刺激的なものではないかと思っています。

この論文は端的に言うと、情報モラル教育において一定の位置づけにあるいくつかの教材を、著者の弟(中学生)にフランクに批評させ、その結果を考察した、というものです。教材は、文部科学省が提供しているものや、道徳教科書に掲載されているもの、研究的に開発され効果検証もされているものなど。一般的に「良い」とされることが多いものということになります。

授業は「まじめ」な場であり、ときに、子どもたちにとって「本音」を語りづらい場となることもあります。教師がどれだけ「本音」を語ってほしいと願ったとしても、教師ー生徒のタテ関係、生徒ー生徒のヨコ関係、「授業らしい」ふるまい、その日の気分・・・様々な要因により「本音」が隠されることがある。(特に、「本音」で考え議論することを目指したい道徳教育の文脈で、そうした問題が語られてきたように思います)

だとすると、一般的に「良い」とされている情報モラル教材に対しても、実は「本音」が隠されたまま授業や研究が展開されているという可能性もない訳ではありません。授業の場では「気をつけたい( ー`дー´)キリッ」と言っていたとしても、実は「こんな事例ありえない(-.-;)」と思っている子もいるのではないか。そうしたことを検証するために、あえて「弟」という身近な存在を対象とし、授業をするのではなく家でざっくばらんに話してもらうという、調査のお手本とは真逆をいくような方法で真実に迫ってみた研究です。

結果としては、
・イラストの人物の気持ちを考えろと言われても、イラストが単純で想像ができない。
・「◯◯だね」と言われたらどうかと聞かれても、そもそもそんな言葉を使わない。
・行動や言葉について順番をつけろと言われる課題が多いが、順番をつける意味がよくわからない。
・前後の文脈がわからなくて答えられない。
・日常で使わないような機能について考えさせられる。
・事例が古い。
・ありえないトラブルが描かれている。
等々のそぼくな意見があったとのことでした。教材開発者としては、こんなこと言われたらくらくらしちゃう(そして作り直したくなる)意見です。しかし、教材の紹介文や、研究的な検証において、こうした批判は見当たらない。むしろ「イラストがあって良いでしょ」「順番づけが工夫点です」というように語られている。ここが、パンドラの箱っぽい感じがしてすごくおもしろいと思うのです。

また、他方で、
・リアリティがある内容で、イラストのレベルも高く、話の続きが気になった。
ものもあったとのこと。・・・手前味噌ですが、これは私が取り組むCHANGERSの1教材についての意見だそう。ゼミでの指導中、教材を選んでいるときに、せっかくなら「本音」の批判を受けたいとCHANGERSも追加してもらったのですが、なんともうれしい結果でありました(笑)。

こうした教材の「質」のような面は、かねてより教材づくりにおいて重要な面だと思ってはいるのですが、どうにも研究の俎上には載せづらい(教材のデザインが語られることは稀でしょう)。しかし、今回のように当事者も教材の「質」が大事だというのであれば、やはり正面から考えなければならないのかもしれない。でもどうやって?と悩みますが、まあ、そこもおもしろい所です。

総じて、なんとも悩ましいなと思う結果ではあるのですが、その分、教材づくりの闇に光があたっているようで、頭を抱えながらワクワクするような、不思議な感覚にもなります。もちろん、調査対象1名という限界はありますが、なんだか真実に手が触れている(触れてしまっている)感じもします。研究界隈をハックするような「遊び心」ある研究であり、阿部ゼミの理想の1つの体現かなと思ってもいます。これからどうやって教材開発をしていけばよいのかは分かりませんが笑。