※A幼稚園の園だよりに載っているコラムの転載です。
世間では,「〇〇メソッド」「◯◯式学習法」といったように,教育の方法に名前が付けられていることがあります。そもそも教育という営みは,発達,環境,文化など,複雑な要素から成り立つものですが,すべての人が「教育学」を学んではいない訳ですから,このような「名前」が付いていると分かりやすくて助かるという人も少なくないのでしょう。
一方で我らがA幼稚園はどうか。おそらく現在のA幼稚園の保育は,何か特定の教育モデルに倣って行われているのではないと思います。また,日本中を探し回っても,木のおうちをつくったり,キャッシュレス経済を探究したり,コルトンをまるごと再現したり,そしてそれらが1つの園舎で同時に起こっていたり,という園はなかなか見つけられないでしょう。言わば「オリジナル」ということになるのだと思いますが,この斬新な教育モデルには,分かりやすい「名前」は付いていません。そのため,人にA幼稚園のことを説明する際にちょっと困っタリもするのですが(笑),でも,よくよく考えると「名前を付けづらいということこそが,A幼稚園の特徴なのではないか?」なんてことも思えてくるのです。
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10年以上,生活展を見学させていただいています。あくまで私個人の感想ですが,10年前と今の様子は全然違うものになっていると感じます。たとえば,近年の年中組では,かなり本格的な「お店」(モノを売るタイプのお店)がつくられていますが,そうした活動は,10年前は年長が中心的に担っていたもののように記憶しています(今年,年中組にある本格的なミスドに感激しましたが,10年前に同じようなミスドが年長でつくられていたのを思い出しました)。一方で年長組では,モノづくりだけでなく,体験型施設や研究所の運営,それこそキャッシュレス経済の探究など,より抽象度の高い課題に取り組むようになっています。以前も抽象度の高い「お店」はありましたが,今の方がはるかに充実していると思います。
こうした変化が生じる1つの要因は,やはり社会のあり方自体の変化にあるのだろうと思います。実際,以前よりもモノを安価で手に入れやすくなっていますし,魅力的な体験型施設があちこちで運営されてもいます。社会が変われば,子どもたちの生活も変わります。子どもの「やりたい!」がA幼稚園の保育の出発点ですから,社会の変化に応じて保育のカタチが変わるのは当然ということになるのでしょう。
A幼稚園では,保育のカタチが常に変わっていくからこそ,その特徴を言葉では表現しづらいのかもしれません(「変わる型保育」といっても何のことやら)。しかし,その捉えがたさにこそ,大きな意義があるのだと思います。「変わる」ことが前提になっていれば,特定の教育に無理やり子どもを押し込めるのではなく,本当の意味で今の子どもに馴染む教育や,本当の意味で今の時代に合った教育を探っていくことが可能になるはずです。今のような緊急事態下においても,「柔軟に変われる」ということは大きな強みであるはずです。
創造的な仕事をする人たちが“Only change is unchanging.”(変わり続けることこそが本質なんだ)と誇りをもって言うことがあります。A幼稚園の保育も同じなのではないか。今年の生活展の様子を見て,昔を思い出しながら,そのようなことを考えました。