幼児教育の分野では、「発達」という言葉がたびたび登場します。日常の中でもよく目にする言葉だろうと思います。

「発達」という言葉を聞くと、どういうことを思い浮かべるでしょうか。一般的には、「子どもが成長する」とか、「できなかったことができるようになる」とか、そういったイメージが浮かぶだろうと思います。今よりも「より良くなる」といったポジティブなイメージだろうと思います。

他方で、研究的な視点からすると、「発達」は「必ずしも良いものではない」という考え方もあるようです。一般的なイメージからすると、「え、なんで? 発達しない方がいいってこと?」と、不思議に思う話です。どういうことでしょうか。

たとえば、子どもは「発達」することによって、相手の気持ちを深く想像することができるようになっていきます。子どもは、最初は「Aさんは◯◯と思っている」という単純な構造を想像できるようになり、そのうちに「『Aさんは◯◯と思っている』とBさんは思っている」といった複雑なことを想像できるようになっていきます(ちなみに、大体6〜9歳のうちに、後者の考えを理解できるようになると言われています。幼児期はまさにこの種の「発達」の入り口にあるということでしょう)。

このように、「発達」によって、子どもたちの想像力が高まっていきます。良い面で言えば、誰かのことを思いやったり、集団の中で役割を果たそうとしたりといったことができるようになるのだと思います。しかし、子ども(人)は、相手の気持ちを深く考えられるという能力を、悪い方向に使うこともできてしまいます。平たく言えば、わざと人を嫌がらせることもできてしまいます。「発達」をこのように捉える見方もあるということです。

そして、ここが重要な点なのですが、「発達」して得た能力を良い方向に使うためには、その子自身だけでなく、まわりの環境こそが重要だと言われています。たとえば、大人が密に関わってくれる環境があるだけで、子どもは安心し、能力を良い方向に使おうとするだろうという指摘もあります。子どもたちが「発達」し、分かることやできることが増えていくときに、能力をポジティブな方向に発揮したくなる環境とは、どのようなものなのでしょうか。

夏休み期間、子どもたちはこれまでとは違う環境で過ごしていくことになります。どんな環境なら子どもたちが安心して伸びやかに過ごせるか、ほんのちょっと考えてみてもよいかもしれません。

※NPO法人企業教育研究会20周年企画「日本の教育をアップデートする」Session3 いじめ でうかがった内容を参考にしています。