先日「NHK for School×アクティブ・ラーニング実践ワークショップ」の講師をつとめた。本イベントは、NHK for Schoolの紹介+現職教員の方の模擬授業+講師(阿部)の授業づくりWSで構成される。3年連続で講師依頼をいただいており、大変ありがたいことである。
https://www.nhk-sc.or.jp/kyoiku/jugyousouzou/

毎年様々なテーマをご提案いただくのだが、今年は「プログラミング的思考+教科(算数)」で何か…とご相談。会場校の研究テーマに関するもののようで、今後の研究のヒントになるものを是非、との依頼であった。さて。阿部はプログラミングは全くできないし、今のところ小学生への授業経験もない。最初はどうしたものかと思ったが、一方で「現代的課題に応じた授業づくり」の専門家ではある。「プログラミング+教科」という新たなお題について、自分だったらどう授業を「つくる」だろうかと、そのプロセスを想像しつつ、それをWSとして具現化しようと考えた。

まず、WSをつらぬく考え方として、「「プログラミング的思考」を一人一人の腑に落ちるようにする」ことが重要だろうと考えた。最近では様々な方の尽力によりプログラミング教育の実践例はどんどん出てきている。書籍やポータルサイトもある。「そもそも「プログラミング的思考」とはなんぞや?」と思うなら、公的な文書に定義を求めれば解決する。つまり、「プログラミング教育、どうすれば?」「プログラミング的思考、どういう意味?」という不安は実はまやかしの問題であり、思考停止して「ただ、やる」だけなら、何ら問題はない状況になっていると思うのだ。それでも「ただ、やる」に向かいづらいのは、実践例や定義が先生一人一人の「腑に落ちていない」からなのだと思う(やり方は見れば分かるけど、なんかおっかない)。あるいは、何か自分なりに創造的な要素をちょい足ししたいというような意識や、自分の方法論やテツガクに沿うかたちで実施したいという意識もあるのかもしれない。
すでに溢れているテキスト。それらをコトバだけで分かったつもりにならず、自分のアタマやカラダに馴染むように「まなびほぐす」ことが重要である。明日すぐ役立つものは与えられないが、そういうプロセスを経験するWSにしたいと考え、「「プログラミング的思考」を「まなびほぐす」」というタイトルでWSを構想することにした。

まずは現職教員の方による模擬授業(プログラミング教育入門、算数+プログラミング的思考、の2本)を体験していただき、その後に授業づくりWS、リフレクション。良かった点、他にすぐ活かせそうな点などの王道の振り返りポイント以外をあぶり出したく、途中で私が問うたのは、「実際にプログラミングを体験していて、自分自身がどういう思考をしていたか、どんな気持ちになっていたか?」というもの。多少のノイズがあったとしても、自分の実感を含めて、自分なりのコトバで「プログラミング的思考」について語れるようになってもらいたいと考えたためである。誰かのコトバを自動機械のように発するのではなく、自分の仕方で語るために。

Theプログラミング的思考というような王道の(公的な、定義っぽい)コトバ以外も出てくるだろうと思ったが、むしろそれを歓迎した。…「試行錯誤しながらだけど、上手くできたら楽しい!」「結果がすぐ分かるのでできた感がある!」「隣の人とああだこうだ言いながらやるのが楽しい!」「ついふざけて色々遊びたくなる!」など、プログラミングの周辺的な部分(感情や、誘発される行動)もひっくるめて、「プログラミング的思考」のポケットに入れておいてもらいたいと願った。イメージとしては、定義の粘土に、自分なりの感情の粘土をくっつけて、ぐりんぐりんに混ぜ合わせて、自分なりの授業を造形するというような…伝わりますかね笑。もちろん後者の粘土だけではまずいのだけど、私ができるのは前者の正確な伝達より、後者のあぶり出しかな、と。
こういった周辺的なところは、研究(現場でも研究者にも)の主役にはならないかもしれないけれど、それを無視していては、きっと、つならない授業が生み出されてしまうだろう。喫緊の課題だけれども、楽しくやりたい(しかもプログラミング教育では「楽しさ」…ココロが軽やかに動くこと…が極めて重要だと思う)。

先生方から出てきたコトバは、AIAIモンキーという意見収集・可視化ツールで集約。本ツールでは、代表的な意見だけでなく、少数派の意見も可視化され、多様な意見に触れやすい。https://active-brains.co.jp/aiaimonkey/ 
最後に、AIAIモンキーで共有した様々な意見を全員のリソース(Freeで使って良い!)として、教科や他の教育活動で「掛け算」できるものはないか考えるというワーク。100のアイデアから1つのダイヤモンドを見つける感じで!と伝え、大量のアイデアを出してもらった。

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阿部は特定の教科等が専門ではなく、「現代的な課題に応じた授業づくり」が専門だと言っています。様々な現代的課題に応じ、その都度新たな仕方で「つくる」ことをしてきた訳ですが、どうもそのことが分かりづらいようで、よく「で、何の専門家?」と問われます。こうした教員研修も、基本的にはおんなじことをやるのは嫌なので、毎度毎度プログラムを(それなりにこだわって)「つくる」ことをしているのですが、ふと振り返るとあまりそうした「つくる」プロセスを記してこなかったかも…と。本WSも、テーマに応じて、ご依頼1年目はブレインライティングの手法を応用した授業づくり方法、2年目は「ダメ指導案」修正ワーク、というものを考えてきていました。そういうものについてちゃんと書き記していってもよいかと考えている所。かつて、ピタゴラスイッチなどで著名な佐藤雅彦さんの「作り方を作る」(Creating “Ways to Create”)という講演を聞き、その内容とタイトルに「なるほどー」と感銘を受けたことを思い出します。…「授業の作り方を作る」ということの専門をつきつめる。