※ずっと参与観察をさせていただいている、A幼稚園の園だよりに載っているコラムの転載です。
A幼稚園では、こども園への移行準備が進んでいることと思います。今後は、これまであった幼稚園の機能に加え、保育園の機能も担っていくことになりますね。
最近うかがった話なのですが、幼稚園部門の方は「ラボ」(=Laboratory:実験室、研究室)という愛称で先生方に呼ばれつつあるようです。子どもたちが実験や研究をするかのように遊びに没頭する姿を思い浮かべる中で、自然と「ラボ」という言葉が採用されたのだろうと想像します。
私は教育学を専攻しているもので、「ラボ」と聞くとジョン・デューイ(1859-1952)というアメリカの哲学者がパッと思い浮かびます。哲学というと「小難しい話だろうか」と思われるかもしれませんが、デューイは「詰め込み教育ではなく、探究的な学習をしよう」とか、「ものづくりの経験って大事だよね」とか、「学校と社会をつなげよう」とか、いま教育界で大事だとされることを当時から主張していた人なのです。(現代の教育の基盤のいち部分は、デューイによって築かれたと言っても過言ではないでしょう)
そして、デューイは、自らの理想を実現しようとする学校を、自らの手でつくってしまいます。その学校が、「ラボラトリー・スクール」という名称なのです。探究的で、社会的で、ものづくりの機会が豊富な、子ども中心の教育が行われていたと言います。……それってなんだかA幼稚園的な世界だと思いませんか? 私が「ラボ」と聞いてデューイを連想したのは、デューイの思想とA幼稚園の保育には、近い所があるという直感もあったからです。
デューイは、変革の時代における教育のあり方を考えた人でもありました。当時(1900年前後)のアメリカは、大雑把に言えば、農業中心の社会から工業中心の社会への移行が済みつつあり、人々が便利さを享受する一方で、「この時代をどう生きていくべきか」という問いが否応なく突きつけられていた時代にあったと言います。時代が移り変わる中で、次世代への教育はどうあるべきか……デューイは、そうしたことを「ラボ」の運営をとおして日々考えていたのだと思います。
折しも、現代も大きな変革の中にあります。情報化やコモディティ化が進み、世の中にモノは溢れ、かつては貴重だった物品が百均ですぐに手に入ったり、ネットには情報が溢れ、情報そのものの価値は相対的に低下していたりします。私たちの暮らしはこれからどうなるか、予測がつきづらい時代です。そして、そのような時代に、A幼稚園はこども園として新たに出発しようとしています。
「ラボ」という愛称が付けられたのは、偶然か、はたまた必然か……。時代が移り変わる時、教育は、保育は、どうあるべきなのか。温故知新という言葉もありますが、A幼稚園の保育について考える上では、デューイの思想が重要なヒントを与えてくれるかもしれません。今回は名前を紹介するだけで終わってしまいますが、まだどこかで具体的にご紹介できればと思っています。