※A幼稚園 園だよりコラムの掲載です。

早いもので新年度はじめのひと月が終わります。違うお部屋に移動したり、新たに入園したりと、子どもたちにとって、期待と不安が渦巻く特別なひと月だったのではないかと思います。

特に、新入園のM組さんたちには、人生最大の試練が訪れたのかもしれません。自分中心のお家から、知らない人たちばかりの幼稚園へ……すなわち「個」から「集団」への変化は、小さな子どもたちにとって衝撃的なものだったでしょう。号泣の声は、「おいおい、聞いてないよ!」と翻訳すればよいでしょうか。たしかにびっくりしたでしょう。しかしながら、M組のみんなには、「個」が大事にされるお家の中ももちろん良いものですが、幼稚園での「集団」生活もなかなか良いものですよ!……と伝えたいところです。

「ひとりでできないことも、誰かとならできる」という現代の教育を支える1つの重要な考え方があります。言葉のとおりなのですが、たとえば幼稚園でも、
・虫に興味がなかった子が、虫好きの友達と過ごす中でいつのまにか虫に詳しくなっていたり、
・自分から前に出るのが苦手な子が、活発な友達についていくうちに自分も何かしようと思い始めたり、
・何かを熱心に作っている子に触発されて、自分はさらに違ったものを作ってみようとしたり、
といったことが起こります。友達との遊びの中で、子どもは「頭ひとつ背伸びをしてみせる」のです。ともすると、個別指導の時間を長くとった方が教育の効果は高いと思われるかもしれませんが、特に幼児期においては、こうした「背伸び」の経験がとても大事で、それが後の成長につながると言われています。幼稚園という「集団」の中で、色んな友達と遊ぶ意義が見えてきますね。

また、この考え方からすると、子どもの過ごす「集団」には、同じような人だけでなく色んな人がいた方が良いでしょう。乗り物好きの子、走るのが早い子、デザインセンスのある子などなど、色んな個性をもつ友達とかかわることで、自分ひとりでは触れることのなかった世界がひらけていきます。日本人は「人と同じ」が好きですが、違えば違っただけ良いはず。誰かの「好き」が自分のためにもなり、自分の「好き」が誰かのためにもなります。もしかしたら、お家では聞いたこともないような話をするようになるかもしれません。

A園で4月に行われている「ペア活動」は、その一歩なのだろうと思います。ちょっと先輩のお兄さんお姉さんから、園での生活について教えてもらう。できなかったことは、きっとすぐにできるようになるでしょう。そしてここから1年間、子どもたちの「個」が生かされた、今年オリジナルの「集団」がつくられていくのだと思います。毎年、年度末のお部屋の姿が違うのは、「個」に応じた結果の証のはず。1年後、子どもが遊びこんだお部屋の様子がどうなっているか、見るのを楽しみにしています。