AIをテーマとしたあるシンポジウムで発言の御依頼を頂いたのですが、出席が叶わずメモを代読していただくことになりました。教育関係者向けのイベントではなかったので、ゆるやかな書きぶりのもととなっていますが、せっかくなのでここに記しておきます。
敬愛大学国際学部の阿部と申します。初等中等教育における授業・教材づくりについて研究しています。社会の変化に応じて、「教育内容」や「教育方法」をどうアップデートしていけばよいか――平たく言えば、学校の授業をどう変えていけばよいかに関心があります。今現在、AIに直接扱った研究はしておりませんが、テクノロジーが社会を劇的に変えていく中で、次世代育成はどうあるべきかは、やはり大きな関心事であり、自分にできることを1つ1つやっております。関連する話題提供をさせていただければ幸いです。
取り組んでいることの一つに、企業と連携した授業プログラムの開発と普及があります。たとえば、新聞記者とともに学ぶ言語技術の授業、プログラマと学ぶ数学や物理の授業、TVゲームのローカライズ担当者とともに学ぶ英語・国際理解の授業といったプログラムをつくってきました。学校で学ぶことと社会とのつながりを子どもたちに伝えたいと考え、教育分野で社会貢献をしたいという企業の専門性と、こちらの持つ教育学の専門性を掛け合わせ、汎用性あるプログラムに仕立てる、ということをやっております。私一人ではできることに限界がありますので、大学、企業、学校をむすぶ活動をする団体、NPO法人企業教育研究会という団体を立ち上げ、実務はそちらに担ってもらっています。私は現在、副理事長という立場です。なお、2016年度は12社と連携し、計194回の出前授業を行っています。
こうした研究・活動を10年以上続けているのですが、近年のプログラムは、やはりテクノロジの発展に応じたものが以前より多くなっています。たとえば、近年、日本アイ・ビー・エム株式会社とともにいくつかのプログラムを開発しています。IoTの仕組みを学び活用アイデアについて考える高校情報の授業、架空の選挙予測教材を用いてビッグデータ分析に触れる数学の授業、といったものがあります。こうした内容は、教科書にはまだ詳しく記されていません。一方でテクノロジの方は右肩上がりで進歩を続けています。学校と社会の距離が遠くなっている状況に対し、今の社会のあり様が透けて見えるような授業であり、学校教育の中にきちんと位置づくような授業を、子どもたちに提供したいと考えています。こうした1つ1つのプログラムの提供をとおして、学校教育の「教育内容」のアップデートを進めたいと考えています。こうした授業プログラムや、開発のウラで考えていることについて、詳しくは拙編著『企業とつくる「魔法」の授業』(教育同人社)を御覧ください。
また、「教育方法」のアップデートも進めたいと考えています。AIが授業中の子どもの記述をその場で分類してくれて、それを討論に活かすといったことが可能になっています。そうしたシステムを「考え、議論する」という方向性が新たに示された道徳の授業で活用するという事例がすでにあります。ICT活用を進めることが求められていますが、単にタブレットを使うとか、電子黒板を使うとか、そういうレベルではなく、AIなどが可能にしてくれる新しい「仕組み」を授業に取り入れていきたいと考えています。それが、教師の授業技術をこれまでと違う仕方でアップデートすることにつながればと思っています。
最後に、教育研究を行う上で、ビッグデータやAIに関連して気になっているのは、「学習者のデータは誰のものか?」ということです。学習者の学習履歴をデータとして活用することはどんどん進んでいくと思いますが、分析者はそれをどこまで自由に活用していってよいのか、考えておかなければならないと思います。