※A幼稚園の園だより掲載コラムの転載です。

昨日まで新しい環境に戸惑っていた子が、今日は楽しそうに過ごしている――そうした姿を見ると、子どもの成長が感じられ、嬉しい気持ちにもなります。ところが、子どもというのは(大人からすると)摩訶不思議な存在であり、できるようになったはずのことが急にできなくなったり、ぐずるようになったりするということもよくあるのではないかと思います。

そうしたことに私たち大人は「なぜ?」と戸惑ってしまう訳ですが、おそらく子どもの成長といったものは、単純に成果を積み重ねたり、着実に課題をクリアしていったりする性質のものではないのでしょう。世の中には、三寒四温とか、三歩進んで二歩下がるとか、波があるとか、ものごとのなりゆきは直線的ではないということを教えてくれる言葉がありますが、子どもの成長もそういうものなのかもしれません。

子どもの成長に関係する「安心感の輪」という有名なモデルがあります。ここで「輪」というのは、子どもたちの冒険が大人に見守られた「安心の基地」から出発し、その旅の先で不安やトラブルを抱え、ふたたび見守りの場所(この段階ではそこは「安全な避難所」となる)に戻ってくる、そしてそこを「安心の基地」としてまた冒険に旅立つ、そうしたプロセスがぐるぐると回る中で子どもが成長していく――といった具合に子どもの生活や遊びを円環構造=輪として捉えるという意味があってのことです。

子どもたちは、「安心の基地」で見守られながら、新たな遊びに挑戦したり、新たな友達とかかわろうとしたりします。しかし、当然ながらすべては思った通りにはいきません。そのときに大人が「何があろうとそのまま進め」という直線的指導をするばかりでは、子どもたちは困ってしまう。回り道に思えるかもしれないけれど、いったん「安全な避難所」へ引き返してきてもらい、そこでたっぷりと安心してもらう。そうすることで、子どもたちは再び冒険に出かけられるというのです。そのときの冒険は最初の冒険とはちょっと違うものになっているかもしれませんが、たとえそうであってもそうでなくても、こうした輪をぐるぐるとまわる経験をすることそれ自体が、子どもの成長にとって大事だ(かえがたい安心感を与える)と考えられています。

ものごとがまっすぐ進んでいかないということに、どうしても大人はやきもちしてしまうものですが、子どもは「進みたい」 のではなく「ぐるぐるまわりたい」と思っているのかもしれません。「ぐるぐる」にこそ意味がある。直線的思考から、ぐるぐる思考へと発想を変えると、子どもの様子や大人の役割もまた違って見えてくるでしょうか。