※A幼稚園の園だよりに載っているコラムの転載です。
最近,自販機やATMなどのミニチュア版をつくれるキットが雑誌の付録になっているのをよく見かけます。設計図のとおりに組み立てると,かなりリアルなものが出来上がるようです。ファンだという方もおられるかもしれません。他にも100均や手芸店などでも,◯◯キットのようなものをよく見かけます。今後3Dプリンタも広まっていくでしょう。かなりリアルなものが,安価で,おうちでもつくれてしまう時代になりました。
はてさて,こうした時代において,幼児教育における「ものづくり」の意味は何だろうと考えます。かたやA幼稚園でも,いずれ子どもたちが様々なモノをつくり始めるでしょう。豊富な素材を使い,リアルなものをつくっていくことは,A幼稚園の保育の特徴の1つです。こちらがつくるモノもほんとうにリアルで,感動的です。どちらもリアルなものをつくろうとするわけですが,これらは同じ営みなのでしょうか。違うとすれば,どこが違うのでしょう。幼稚園だからこそできることって何なのでしょう。
多くの方は感覚的に「違う」と思われるでしょう。パッと浮かぶのは,おうちの方以外の友だちや先生と一緒になってつくれるということかと思います。子どもは,自分とは違う誰かとかかわる中で,「背伸び」をしながら成長していくと言われます。たくさんの友だちとかかわることができる場として,幼稚園はかけがえのない場だと言えます。ただ,こうした「かかわり」という観点は,よく言われることでもあります。今回はもう1つ,別の言葉を使って考えてみたいと思います。
「ティンカリング(Tinkering)」という言葉があります。もともとは家具などの修理屋さんが,色々な道具を使って「いじくりまわす」ことを指す言葉だったようです。最近では,「型にはまらず,工夫を重ねて,創造的にモノをつくっていく」という意味でも使われています。教科書を暗記するチカラではなく,創造的に何かを生み出すチカラが求められるこの時代において,「ティンカリング」に注目がなされるようになりました。
A幼稚園で日常的に行っている「ものづくり」は,まさにこの「ティンカリング」ではないかと思うのです。設計図の指示どおり正確に組み立てを行うのではなく,自分の考えで素材を選び,自分の手がモノに与える影響を感じながら,作戦を練り直しつつ,イメージを探っていく営みです。たとえば,T組の「おうち」だって,秘伝の設計図をもとにつくれば早いはずですが,子どもたちは1から試行錯誤――つまり,「ティンカリング」をしていきます。「ティンカリング」には決まったルートがなく,不安を感じることもあるかもしれません。時間もかかります。傍からはいきあたりばったりに見えるかもしれません。完成品もバラバラ。しかし,そのプロセスの中で手を動かし,思考をすること自体に意味があるはずなのです。ゆったりとした「ティンカリング」の時間を過ごせるのが幼稚園であり,A幼稚園が大事にしていることなのかなと思います。
念の為言っておくと,どちらの「ものづくり」が良い/悪いということではありません。設計図どおりにカンタンにつくれる楽しさもあれば,「ティンカリング」の楽しさもあるのだと思います。また,実際は双方がはっきり区切れているのでもないと思います。今は,幼稚園でぞんぶんに「ティンカリング」できる日を焦らず待ちたいと思います(きっと,少しずつ,だと思います)。また,待っている間も,自分の生活を「ティンカリング」っぽいもの(もっと余裕があり,もっと遊び心のあるもの)にできないかなあと振り返ってみようと思っています。